私、今から詐欺師になります
 再婚して、何事もなく上手くいっていた家庭のように思っていたけど。

 そういうわけでもなかったのかもしれないな、と今、気がついた。

 みんな、なにかしら胸に抱えてるんだな、と思っていると、
「あの、僕、こういうものなんだけど」
と男は少し恥ずかしそうに名刺を渡してくる。

 やはり、此処の社員のようだった。

「あの、もしよかったら、今度……」

「茅野」
と声がした。

 あの、聞いただけで、心臓が一回跳ねてしまう声だ。

「あ、古島社長」
と男が振り向き、頭を下げる。

 穂積も男に頭を下げた。

「茅野、待ったか?」
と訊いてくるので、

「あ、いえ。
 そんなには……」
と言ったとき、男が

「あ、すみません。
 じゃあ……失礼します。

 ごめん。
 今の忘れて」
と苦笑いして、去っていった。
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