Leila -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅱ-



 表情こそ平静を保っているものの、テーブルの上に置かれた握りこぶしが震えていた。


リーラは沈黙で先を促す。



「生まれや育ち、男や女の違い、神の決めた占い……、自分ではどうにもならないものに、満足に生きることを妨げられることのない国を作りたい。せめて、リゼルの死に報いるために」



 リゼルというその姫を、リーラは知らない。


けれど目の前のアルザの、言葉が、目が、こぶしが、リーラに示していた。


アルザにとって、リゼルがとても大切なひとであっこと。


リーラが兄王子を想うように、兄王子たちがリーラに想うように、大切なひとであったこと。



「ならば――リゼル姫のためにも、陛下」



 作りたい国を、亡き妹姫に見せたかったこの国の姿を、叶えるために。



「わたくしをお連れください。わたくしが変革の矢面に立ち、陛下の夢の一歩となります」



 そのために、リーラはウィオン王家へ嫁いだ。

――この国へ、嫁いだのだ。



「わたくしは、あなたの妻なのだから」



 もう震えの治ったこぶしに、そっと手を重ねる。


寄り添う者がいることを、教え含めるように。


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