サガシモノ
「みんながみんなあんたみたいに怖い者知らずなワケじゃないんだから」


渚が小声でそう突っ込んだ。


その通りだ。


少なくとも、この飯田アキラにはそんな勇気も力もあるようには見えなかった。


イジメっ子たちの言う事を黙って聞き流すくらいしか、自分を守る手段がないのだ。


便器の前に立った飯田アキラを見て視線をそらそうとした、その時だった。


五十嵐孝が蛇口に付けられているホースを手に取り、ニヤリと笑った。


それを見た2人が飯田アキラの両腕を掴み、動きを封じたのだ。


「うわ……」


渚が思わず視線をそらし、ホースの先から勢いよく水が出て来た。


一瞬にしてずぶ濡れになる飯田アキラ。


そして大声を出して笑う3人。


これはもう、完全にイジメだ。


昨日見たよりも随分とエスカレートしている。


飯田アキラは水に驚き、その場に尻餅をついてしまっている。


その上から更に浴びせられる水。
< 111 / 214 >

この作品をシェア

pagetop