サガシモノ
大切なもの
気が付けば、あたしは静寂と薄暗さに包まれていた。


柱時計は止まっていて、彼らの姿もどこにもない。


「に、逃げよう!」


渚の声が聞こえて来た瞬間、ハッと我に返って走り出す。


今のはなに?


現実?


それとも夢?


鼓動ばかりが早くなり、走りながら何度も躓いてこけそうになった。


広間から出口までの短い距離が永遠のように長く感じられ、背中から彼らの声が聞こえてくるような気がして鳥肌が立った。


外へ出て旧校舎から遠ざかった時、先頭を走っていた渚がようやく足を止めた。


みんな立ち止まり、その場で呼吸を整える。


「今の……見た?」


渚が誰ともなくそう聞いた。


「……あたし、見た」


そう言う自分の声が情けないくらいに震えている。


「俺も見た。あれって、昔の椿山高校の制服だよな?」


健がそう言った。


「たぶん、そうだと思う」


あたしは曖昧に頷いた。
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