俺が彼女に会えない理由
プロローグ
2015年。2月13日。

先週、上司に呼び出された添嶋冬弥(そえじまとうや)は、今秋、重要なパートナー企業である某有名アパレルメーカーが『デジール』という新ブランドの店舗をオープンさせる話しを聞かされた。

その立ち上げの主担当に冬弥を抜擢するとのことだった。

冬弥は、商社に入社して六年目で、ようやく、本当に自分が望んでいた仕事を得ることができた喜びを感じるとともに、意欲を沸き上がらせた。

そして、今朝早く羽田から福岡に飛び、『デジール』博多店スタッフと顔合わせを兼ねた打ち合わせ会議をし、それが終わると新幹線に飛び乗って名古屋に向かった。

午後からは名古屋栄店のスタッフと行う予定になっているためだ。

時間通り、名古屋の会議室に到着し、名刺交換を済ませ、渡した運用計画書をもとに会議を進行していった。

二時間ほどの会議が終了すると、名古屋栄店の店長を務める男性社員が、「今から、みんなで飲みに行くんですけど、一緒にどうですか?」と誘ってきた。

冬弥は「ご一緒させていただきたいのですが、東京に帰って、まだ仕事がありますので」と丁重に断った。

だが、本当の理由は違った。

亡き恋人を想って、一人になりたかった。
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