私に恋してくれますか?
私が猫を抱いたまま、ふりかえると、
柵の向こう側の塀の下に、息を弾ませた男の人がいた。

背が高く、肩が広い、髪が黒く、意志の強そうな切れ長の瞳も真っ黒だ。
整った顔をしているけど、
「オマエん家はマタタビでもまいてんのか?
昔も、こんな事があったな。
ぴーこ。
生きてたか?
心臓が悪かったって聞いてたから、死んだんだって思ってたぞ。」とにかっと笑った。

この笑顔は知ってる。

口の悪さは昔のまま。

こっちは

「弟。」と言うと、

「覚えてたか?
脳みそも無事だったみたいだな。」とクスクス笑った。

「お兄さんは元気?」と聞くと、

「オマエ、俺の事は無視か?」と聞くので、

「そうね。
元気だった?…透(とおる)くん?だったっけ?」

たしか、お兄さんは優(すぐる)くん。
私が6歳。
彼等が12歳と11歳。
だからトオルくんは29歳?
立派なオトナのはず。

「覚えてたな。
オマエって全然変わってないな。
チビで、ボンヤリしてて。
まだ、毎日庭にいるのか?」

「毎日庭にいないけど…。
今日は仕事はサボったの。」

「へえ。
サボるのは身につけたのか?
体が弱いくせにサボりまで覚えるとは
とんでもないオンナに育ってないか?」と呆れた顔をするので、

「今日は特別。
明日はお見合いだし。」とうつむくと、

「見合いが嫌なのか?」と聞くので、
頷くと、

「馬鹿だな。
嫌だったら、逃げ出せよ。」とトオルくんはにかっと私に笑いかけた。



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