金木犀のエチュード──あなたしか見えない
「腱鞘炎?」

「あんなにムキになるのは、やっぱり腱鞘炎は本当なんだと思う」

わたしが腕組みをして考える仕草をすると、志津子も同じように腕組みをした。

「まあね~、あの指使いで、あの演奏をするには相当、指を酷使しているわよね」

「祖母はかなり厳しく指導していたのよ。でも、彼はなかなか矯正できなくて。我流の癖が未だに抜けていないのよね」

「不思議を通り越して、奇跡ね。生徒会長が怒るのも解るな」

「だからといって殴るのは……」

詩月くんとすれ違った時、微かに湿布薬の匂いがした。

詩月くんが緒方さんと肩を並べて歩きながら、どんな話をしているのかが気になり、耳を澄ませた。

でも緒方さんの声は聞こえるのに、詩月くんの声は殆ど聞こえなかった。

「緒方さんが一方的に喋っているわね」
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