うっせえよ!





え? 何? こいつマジか?



パイロット? ウィーン? え? 誰のこと?



まさか、合コンで気負っているのか? 気負いを通り越した嘘丸出しの見栄まで張って彼女がほしいのか?



とてもそういう風には見えない。少なくとも、私の知っている柏原誠司という男は、仕事馬鹿で、未だかつて一度も原稿を落とさせたことはなく、おまけにウェブ小説にも余念がなく、自らがスカウトした作家が最近では芥川賞を受賞して、自慢していたのだ。



そんな実写版緑間真太郎が、合コンで気負っているなんて、藤原が訊いたら驚くだろうなと思う。



「へえ、明美さんは介護福祉士なんですかあ。それで、こちらの方は?」



おまけにこいつは、もうすっかり私を初対面の人にすることを決め込んだらしい。



「ああ、この子はね、私の友人で作家をしてるんですよお。知ってます? 『大木りん』って。」



笹川さんは「ああ!」と声を上げたが、誠司さんは「誰だ?」と白々しい。



「やっぱりあの大木りん先生でしたか! なんで嘘なんかついたんですかー!」



明美のせいで笹川さんにはバレてしまったが、もうそんなことはどうでもよかった。



「へえ、大木さんってそんなにすごい方なんだ。僕はてっきり、売れないお笑い芸人かと思いましたよ。面白い顔してるし。ああ、いい意味でですよ? もちろん。」



などと日頃の私の行いへの当てつけのように、慇懃で、しかし濁りのある目で誠司さんは言った。



この時ほど、本気で人を殺したいと思ったことはないだろう。




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