恋なんていたしません!
肩を並べて一緒に歩くわたしたちだけど、手は繋がない。

まだそんな仲ではないのだから当然のことである。

「よかったですね」

そう声をかけてきた一ノ瀬に、
「そうですね」

わたしは返事をした。

「伊勢谷さん、田ノ下さんに異動のことを言ったみたいですよ」

「そうですか」

一緒ならできるかも知れない――わたし、この人と一緒に変わることができるのだろうか?

正直なことを言うと…大好きな乙女ゲームを捨てて、この人と一緒に変わることを選んだ未来を想像できない。

「もう少しでつきますよ」

そう言った一ノ瀬に、
「…そうですか」

呟くように、わたしは返事をした。
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