Time after time たとえ何度忘れても ・・・


次の日は、コンコンコン・・・という、硬い音に起こされた。

目が覚めて、オレは自分がどこにいるのかが一瞬分からなかった。


自分の家ではない天井と、顔のすぐ横にある畳の感触。
壁に掛かったカレンダーは占い付きの日めくり式で、それで、オレはここが弥生の家であると思い出した。
弥生のおばさんが占い好きだったのだ。

ジジジジ・・という扇風機が回る音がしている。
これはオレが昨夜つけたまんまだった。

けれど夏の朝、扇風機だけでは快適といえず、オレは額と背中に汗を感じた。

ゆっくり起き上がると、反動で、枕代わりにしていた二つ折りの座布団が開いていく。

どうやら、またしてもオレは寝落ちしていたようだ。

弥生を部屋に運んでから、旅行代理店に電話をしたがやはり繋がらなくて、それから戸締り確認をして、居間に戻ってからはなんとなく深夜番組を観ていた・・までは覚えているのだが、そのまま寝てしまったらしい。


オレはちょっとだけ痛くなった首を片手で揉みながら、居間と引き戸で仕切られたキッチンダイニングを覗いた。

十畳ほどのキッチンダイニングでは、弥生が何か作業をしていた。

さっきの音は、包丁でネギを切る音だったのだろう。

まな板の上から少しはみ出た緑色がその証拠だ。


コンロへ、流しへ、と横移動する弥生の後ろ姿はとても自然で、このキッチンに慣れ切っている動きに感じた。


俄かに、弥生の記憶が戻ったのではと期待が生まれる。


「何作ってんの?」


おはよう、を省略して、オレはいつものように声をかけてみた。



すると弥生が、ビクッと背中を震えさせ、振り向いた。






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