Time after time たとえ何度忘れても ・・・


「あの、もし諒さんがお疲れでなかったら、もうひとつ、連れて行ってもらいたいところがあるんですけど・・・・・・」


ショッピングモールの立体駐車場を出口に向かっている途中で、弥生がそんなことを言い出した。


オレは心の中でガソリンを満タンにしておいた自分を褒めてやりつつ、弥生に「いいよ。どこ?」と返した。



「昨日行った、あの浜辺に・・・・・。そこって、私と諒さんがよく行ってた、思い出の場所なんですよね?」

「そうだよ。小さい頃から、弥生が進学で東京に行くまで、しょっちゅう行ってた場所。」


答えながらも、オレは、胸に苦い記憶が蘇るのを感じていた。







弥生が東京に行く前、最後にオレと会話したのが、あの浜辺だった。



いつまで経っても弥生が受かって自分が落ちたという現実を乗り越えられずにいたオレを、弥生がしびれを切らして叱ったのが、あの浜辺なのだ。




『夢が変わったっていいじゃないの?』
『ダメだったらやり直すのもアリじゃん!』



そう叫ばれたオレは、それが正論過ぎて、むしろ苦しかった。



いつも余裕ぶって、弥生はオレが守ってやらなくちゃとか、弥生はオレがついてないとダメだなとか、自分勝手に自惚れていたくせに、あんな結果になって、オレの自尊心は木っ端微塵に砕け散ったのだから。


なのに、そこへきて、オレの自尊心を木っ端微塵にした張本人の弥生から正論を諭されたところで、素直に耳に入れられるはずはなかったのだ。



だが最後、逃げ帰ろうとしたオレを引き止めた弥生が、オレを波しぶきの中に放り込んでから放ったセリフが、今も鮮明に残っている。




『・・・・・・・・そんなの、そんなの私の好きな諒ちゃんじゃないっ!!』




打ち寄せる波の中、服ごと海水独特のぬめりに巻き込まれながら耳に届いたそのセリフの意味を、オレはすぐには理解できなかった。


そして弥生の言い放ったことが頭に届くと、オレはへなへな・・・と力が抜けるように、その場に座り込んでしまった。


だがその時すでに弥生の姿は浜辺にはなく、オレは、一人残された波の中で、わけもなく呆然としていたのだった。



今も考える。


あの日、弥生の言葉に真摯に耳を傾けていれば、たとえ住む場所が違ったとしても、幼馴染の距離を保ったままでい続けられたのだろうか。


あの時、浜辺から去っていく弥生に向かって ”オレも好きだ” と伝えていたなら、その後の四カ月の音信不通は避けられたのだろうかと・・・・・・・









そんなことをぼんやり考えていると、車は、目的の場所に到着したのだった。











< 81 / 114 >

この作品をシェア

pagetop