町はずれの映画館
「ゆ、ゆゆ幽霊!?」

「まぁ、そういう類の噂は昔からあったね」

 あっさりと何でもない事のように頷く圭に、美奈は意味のなくまわりとキョロキョロと見回した。

「え。だって」

「僕は興味ないから、そんなに詳しい訳じゃないけど。見に行った人達の話じゃ信憑性高かったかな」

「信憑性って……」

「だけど、まだ営業してるとは思ってなかったなぁ」


 爽やかに言う圭を見上げながら、美奈はつくづく後悔した。

 何せ『怖いもの好き』の沙織が持ってきた話である。最初から、あらゆる意味で疑うべきだった……と言われればそれまでだが。

 実のところ、美奈は幽霊お化けの類が、大の苦手だった。

 それでも沙織が持ってくる話は、いつもまわりも疑うような眉唾ものが多く、美奈も安心していたのだが。


「信憑性が高いんですか?」

「まぁ……興奮してる奴と、静かにしてる奴……反応は半々だったけど」

 素っ気なく言われるから、余計に恐い。

 怖い話をするならば、それらしくおどろおどろしい感じで言って貰いたい。

 その方が逆に胡散臭いし、安心出来ると美奈は思った。

 そんな美奈に気がついていながら、ニヤニヤと笑っているだけの親友の兄。

 圭のこういう所も、美奈は苦手だ。


「まぁ“見てない”奴もいるから、君が“見る”とは限らないでしょう」

 そういった問題ではない。

 要は気持ちの問題だ、とは思いながらも、目の前の建物に美奈は躊躇した。


 月明かりに浮かび上がる、こじんまりとした建物。

 少し汚れてひびの入った外壁と、お洒落さのかけらもないシンプルな入口。

 記憶の中の真っ暗なガラス扉に閉館中の札はなく、中から微かにオレンジ色の明かりが漏れている。

 昔よりも老朽化していたが、その映画館は健在だった。



「帰るかい?」

 圭は美奈を見下ろしながら呟く。

 妹の親友は怖がりのくせに意地っ張り。

 よく見ると微かに膝は震えているのに、表情だけが何気ない。

「か、帰ってもいいのかなぁ?」

 圭を見上げて、美奈は微かな希望に縋る。

 声音までは意地が張れないらしい。


「別にいいんじゃないかな? 僕は保護者代わりだから、君は、帰り一人になるけど」

「……あ。ですよね?」


 映画館に入るのも怖いが、今来た道を一人で帰るのも怖い。

 美奈はがっかりして、当然のことを言っただけの圭をじろっと睨んだ。
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