今宵、君と月の中で。
塾が終わると一目散に教室を飛び出そうとしたのに、先生に呼び止められてしまった。


「松浦さん、最近集中できてないみたいだけど、なにか悩みでもあるのかな?」


三十代半ばほどの男性講師は、他の生徒たちの視線を避けるためか空き教室に促してきたけど、その質問に答える時間すら惜しかった。


「いえ」


「でも、明らかに集中できてないし、なによりもいい加減に進路を決めないといけないけど、なにか考えた?」


「とりあえず、志望校は自宅から通える場所にしようと思ってます。学部は、まだこれから……」


今日は学校でも担任からまったく同じ質問を受けたこともあって、早く公園に行きたくて焦れるような感覚を抱きながら話していた。


「わかってると思うけど、学部によって受験する科目も対策も変わってくるから、もっとちゃんと考えないといけないよ」


わかってる……。でも、今は……。


悪いのが自分だということも、優しい口調の講師が私のことを気に掛けてくれていることも理解していたけど、なかなか解放してもらえないことに焦りと苛立ちが募っていく。


「とにかく、面談までにご両親とよく話し合っておいてね」


ようやく話が終わると、私は挨拶もそこそこに教室を飛び出した。

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