ふたりだけのアクアリウム


『だから、それ以上に君のことが大事だって言ってるの!』


先月、綱本係長と揉めた時に彼は間違いなく私にそう言った。言ってくれた。
でも、あの日から目まぐるしいほどに仕事が忙しくなった沖田さんに、好きだと言うチャンスは訪れなかった。


彼の活躍は嬉しいんだけど。
でも、でも。

会って話したいなぁ。


ひとり暮らしの部屋でぼんやり熱帯魚を眺めていると、いつも決まって彼のことを考える。

水槽から聞こえる水音も、ヒラヒラ揺れるカラフルな魚たちも、本当にとても綺麗で癒される。


それでもどこか物足りない気がするのは、隣に沖田さんがいないからなのかもしれない。

スーパー沖田くんがいないと、つまらない。




「佐伯さんって、クリスマスイブの予定とかあるんですか〜?」


隣のデスクで、たいてい仕事と無関係の美容系のサイトを眺めている後輩の女の子にそんなことを聞かれた。
そういえばけっこう前に、彼女はクリスマスデートの勝負服ってやつを検索してたんだっけ。


「特にないかな。その日も残業だろうし……ね」

「私、イブに好きな人に告白しようと思ってるんです〜!ラッキーカラーはミルキーピンクですって」

「みるきーぴんく……」


そんな「いかにも」な色の服、着れないな。

でも、若い彼女はミルキーピンクのモヘアニットのミニワンピースをクリスマスイブのためだけに購入したのだと言う。


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