ふたりだけのアクアリウム


翌日、沖田さんは朝早くに会社へ出勤。
夕方には仕事を終わらせて、私を迎えに来てくれた。

何度か乗った彼の車で、沖田さんのマンションへ向かう。
水草水槽を初めて見せてもらった日以来の部屋だ。

相変わらず色味の少ないインテリアに映えるように、鮮やかな水槽が目立って見える。


「わぁー!これこれ!また見たいなあってずーっと思ってたんです」


テンションが上がって、水槽に駆け寄ってぺったり張り付くようにして眺める。
その場にストンと腰を下ろしてゆらゆら揺れる何種類もの水草に癒しのアルファー波を感じた。

私の隣でしゃがんだ沖田さんが、水槽越しに目を合わせてにっこりと微笑んだ。


「これからはいつでも。見たいと思った時においで」

「ふふ、幸せ。住み込みたいくらい、沖田さんの水草水槽が好きです〜」


ヘラッと締りのない笑顔を浮かべると、彼は面白そうに吹き出していた。


「逸美ちゃんって、意外と甘え上手?」

「え?うそ?」

「ほんと」

「言われたことないなぁ」

「…………住み込んでみる?」

「━━━━━へ?」


気の抜けた返事をしてしまったのは、あまりにも予想だにしなかった言葉を言われたからだ。

くくく、と押し殺したような笑いを含んだまま、彼が私の手に大きな手を重ねてくる。


「だって片時も離れたくないし」

「お、お、お、沖田さんも…………意外と……」

「意外と?」

「甘やかし上手、ですね」

「初めて言われた」


彼は肩をすくめて、水音だけが流れる静かな空間で。
空いている手で私の髪の毛を撫でる。

沖田さんは、本当に甘やかし上手。
だから私も素直になんでも言えるのかな。


「水槽もお引越ししておいで。僕の水槽と合わせよう」

「熱帯魚入れてもいいんですか?」

「もちろん。……あ、でも逸美ちゃんの返事聞いてないんだけど」


私はちょっと焦らして、でも嬉しさを堪え切れなくて、結局彼の思い通り。



「そんなの、答えはもう決まってます」







燃えるような恋じゃない。

ドラマチックな恋じゃない。


でも、私は確かにこの人が好き。










ふたりだけのアクアリウム

おしまい。

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