ふたりだけのアクアリウム


デスクにしまい込んでいた、沖田さんが取ってきた大口の法人の契約書。
努力や苦労が染み込んだその契約書を、私がシュレッダーにかけて廃棄することなんて出来ない。


その契約書を、再びデスクへ戻して引き出しを締めた。


「いっちゃん、聞いた〜?昨日の試作品のアンケート結果!栗のお菓子が一番人気だったって〜」


茅子さんが出勤してくるなり、どこかで仕入れたらしい情報を教えてくれた。
視線を営業部から事務スペースへ戻して、「やっぱりそうなんですね〜」と笑顔で返事をした。


お菓子はやっぱり、甘くて柔らかくて、優しい味のものが好まれる。

私が好きなビターな味のは、たいてい二番手三番手。

抜きん出て目立つものじゃなくて、控えめなもの。


恋愛においてもそう。
ちょっといつもと違う、目立っていてとびきり甘いものをつまんでみたけれど、痛い目を見た。


じゃあ、控えめな人は?


また視線を沖田さんに移した。


私は確実に彼のことが気になっている。
それだけは感じていた。

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