イジワル御曹司のギャップに参ってます!
何も反論できなかった。
確かに今の私は、必死に目標に向かっていたあの頃と比べて、天と地ほどの差があるだろう。
今、何を言ったところで、負け犬の遠吠えにしかならない。
急に自分が情けなくなった。

「それで。どうするの」
流星が私の胸元を乱暴に掴み、自分の方へ引き寄せた。
冷ややかで、でも意志の強い、美しい瞳が、私を射貫く。
「おとなしく負けを認めて引き下がる?
経歴も理想も全部捨てて、無難な『朱石光子』になってみる?
俺はそれでもかまわないよ。ライバルが一人減るからね」

「やめろと言っているだろ!」

見かねた市ヶ谷くんが私を掴む流星の腕を強引に引き離した。
流星は後ろへ弾き飛ばされながらも、私から視線を外すことはしない。

最後に、流星は気持ち良いほどの笑顔を浮かべて言った。

「あなたが魂込めて練り上げた『ジュエルコスメ』の企画、俺が貰うね」

私はハッとして顔を上げた。
私の絶望的な表情を見て、流星が高らかに笑う。
どうせあなたは、もう何もできないんだから、そんなニュアンスが私を見下す彼の笑顔に宿っている。

「今度はちゃんと無難にまとめてみせるよ。
大丈夫。失敗なんてしないから。クレームなんて上がってこないように、当たり障りなくこなすから。
唯一無二なんかじゃなくていい。それなりに良いものを創れば、それなりに誰もが納得する。
どうせ二、三年経てば、忘れ去られる企画なんだ。
そんなにこだわらなくたっていいじゃないか! 貰える対価と同等の働きだけしておけば」
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