イジワル御曹司のギャップに参ってます!
氷川の作ってくれた食事を食べ、くだらない世間話なんかをぽつぽつと交わしているうちに、二人の間に根付いていた距離感とライバル心が徐々に薄れていくのを感じていた。

食事を終えたあと、早く帰りなよと進める彼を振り切って、例のファイルの続きを見せてくれと頼んだ。
最初は嫌がってた彼だったが、粘る私に根負けして、ため息交じりにOKしてくれた。

ベッドの上に座り込んで、五年分のファイルを広げる。
懐かしい記憶が蘇り、興奮が私を饒舌にさせた。
あのときは大変だった、あれは酷かった、これは最高だった、仕事に対する語りつくせない思いが、いくらでも溢れてくる。
それを彼は、うんうんと相槌を打ちながら、ときたまちょっと面倒くさそうな顔をしながらも付き合ってくれた。

真逆だと思っていた私たち。
こうやってじっくり向き合ってみると、素晴らしいものを創り出したいという想いは一緒で。

――なんだ。私たち、同じ方向を見てるんじゃん。

今まで宇宙の彼方のように感じていた彼が、同じ大地に足をついて手を重ねられる距離まで近づいた。
無性に彼を近くに感じて、明日からはもう少し、協力し合える気がした。
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