『ココロ彩る恋』を貴方と……
「要らないことを申しましたね」と、肩を竦めて謝った。


「申し訳ありません、お話が過ぎてしまいました。今日はお休みですか?お食事でもされます?」


女性の言葉に「はあ」と声を返した。

何が食べたいですか?の問いかけに、彼女と同じような答えを出そうとしたが……



「別に何でもいいです」


色指定もせずに任せた。女性はプロの家政婦らしく、「では材料を見繕ってから和食でも作りましょう」とキッチンへ向かった。


その背中を見送りながら、賑やかに料理をしていた彼女のことを思った。


(……あの明るさの奥に、寂しい過去を閉じ込めていたのか……)


料理は決して得意そうだとは言い難い雰囲気だった。

包丁の音も辿辿しかったし、味にもバラつきが多かった。

それでも一生懸命さが伝わった。「美味い」と思える物も出たし、何より一緒に食べると落ち着けた。


(どうしてやめたんだろう。このままずっとこの家に通って来て良かったのに……)


広報部長の河井さんに言ったら、俺の配慮が足らないからだと言われてしまうだろうか。

もっと気を付けて見てないからよ…と、耳の痛いことを言ってきそうだ。



(仕様がないだろう。こっちはそんな心理状態ではいられなかったんだ……)



障子の前に座り込み、あの日のことを思い浮かべていたーーー。


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