『ココロ彩る恋』を貴方と……
「……彼女の命は俺が奪ってしまった。その俺がのうのうと生き残ってまで、人生を楽しんだらいけないと思った……」


不運な事故を自らの責任だと言い張り、兵藤さんは深い溜息を吐いた。


「視野が狭くて見える範囲が限られてた妹は、左右を確かめるのにも何度も首を振らないといけなかった。

それなのに、あの日は俺が目の前にいることだけを確認して飛び出した。右から来る車にも気づかない程混乱していて、余程焦っていたんだろうと思う…」


振り返る過去に蓋もしないでいれる人は強い。
私は生きてきた過去全てに蓋をしているというのに。


「急ブレーキの音がして彩の体が宙に舞った。

マネキン人形が転がっていくみたいに地面に転がり落ちていく様を、俺は馬鹿みたいに見ているしかできなかった。

呆然としていたら周囲が騒ぎだして、それでようやく我に返って近付いたんだ……」


青っぽい目があの日写した光景は、きっとこれからも蘇ってくると思う。


「頭から血を流していた彩が小さな声で呻いて、直ぐに息をしなくなった。
流れ出る一方の血を見ながら、俺はあいつに何もしてやれなかった…」


話を聞きながら病院で祖父に付き添ってた時のことを思い出していた。

足の壊死が進んで歩くこともできなくなった祖父の側から、私は片時も離れずにいたーー。



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