『ココロ彩る恋』を貴方と……
「すみません。お待たせしました」


サラダと一緒に蕎麦を差し出すと、無言で手を合わせる。


「あの……」


つい声をかけてしまった。


「ん?」


潤んだ瞳がこっちを向く。
ドキッと胸が弾み、異様なまでに焦る。


「あ、あの…せめて『いただきます』くらい、言いませんか?」


初日から思っていたことを口にした。

人間にも食事にも興味がない人なのかもしれないけれど、それくらいは言っても構わないんじゃないかと思う。


「小さい頃、食べ物を食べるってことは命を頂くことだと教わって。…だから、どんなに美味しくない物でも口にする前は言った方がいいって…」


話しながら蓋をしていた思い出が溢れ返りそうになって慌てた。

涙腺が緩んでしまいそうになり、思わず口籠る。


(…ヤバい、雇い主さんに意見しちゃった)


やってはならない事をしてしまった。

兵藤さんが気難しい人なら、間違いなく契約が切られるようなことだ。



「……そうですね」


私に向けていた目線を皿の上に落とした人が囁く。


「満仲さんの言う通り、俺は礼儀ができてなかったな」


「いえ、そんな…」


「すみません。いただきます…」


きちんと声と手を合わせて項垂れる。
その美しい佇まいに胸がきゅぅ…っと痛くなる。


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