『ココロ彩る恋』を貴方と……
あんな事があった翌日も、兵藤さんの態度は変わったりしない。

相変わらずぼぅっとした生活ぶりで、私のことを認識もしてくれない。


(……まぁね。分かってたけど)


昨日は誰かの代わりに抱きしめられたんだって。

だから、泣いてる私を私だとも認識していなかった……って。


(……だったらその誰かって誰よ)


イライラしながら障子の木枠に水糊を塗っていた。

刷毛はありませんかと聞いたら、兵藤さんが仕事用のがあるからどうぞと貸してくれた。


(あんなに兵藤さんの心を鷲掴みにしている人って誰!?)


その人はこの間名前を呼ばれていた人?

「さやか」っていう名前の人は、どうしてこの家に訪ねて来ないの?

片付けもできない単色志向の人なのに、どうして放ったらかしにしている?


私が彼女なら絶対に一緒に暮らすのに。

不可解なところもあるけど、基本的には優しい人だと思う。

決して声を荒げないし、同じ失敗はしない様に心掛けている。


(それに家政婦とはいえ若い女性が家に通ってくるんだから、多少は気になるってもんでしょうが!)


ちっとも眼中には入れられてないし、家政婦としてしか認められてもないけど。


(それでも、少しは助かると言われたよ?)


頑張ってると認めてくれたし、お礼代わりに…とお茶まで出してくれた。

障子の張り替え用に使わない和紙もくれたし、仕事で使う刷毛まで貸してくれている。


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