ラティアの月光宝花
逆光で顔は見えない。

けれど……スラリとした長身、筋肉の張った逞しい腕。

セシーリアとディーアが見つめる中、差し込んだ日の光を反射し、男が握るスティーダ(両刃の長剣)がキラリと光った。

「…殺されたいのか、無礼な男よ」

ディーアの言葉に突然現れた男は鼻で笑った。

「まさか。俺はこれから敵討ちをしなきゃならないんだ。とてもじゃないけど死んでる暇なんかないね」

……敵討ち……。

ディーアは視線だけを向けていたが、その言葉に反応し、身体ごと男に向き直った。

「……男。敵討ちとは誠か?」

「ああ」

……見たような顔…いや、この榛の瞳は確か。

……守護神としてこれは好都合だ。

ディーアはホッと息をつくと唇を引き上げて笑った。

「そうか。なら生かしてやる。励め」

「あ…守護神ディーア!」

慌てて名を呼ぶセシーリアに、ディーアは一瞬だけ視線を投げると短く言葉をかけた。

「セシーリア・ラティア。また会おう」

言い終えるや否やディーアの身体から閃光が迸り、やがてそれが治まると同時に彼女の姿は消え、神殿の中央のディーア像もまた大理石に戻っていた。

辺りは静まり返り、まるで何もなかったかのように朝日が差し込んでいる。

……夢のようだが現実である。

「何だよ、女神サマは帰ったのか」

その声で我に返ると、セシーリアは入り口の男に再び問いかけた。
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