ラティアの月光宝花
「セシーリア。俺も会いたかった」

シーグルが、泣きじゃくるセシーリアを見て困ったように笑った。

「来い」

スティーダを置き、両腕を広げたシーグルの胸にセシーリアが思いきり飛び込む。

「シーグル、シーグル」

「泣くのは後だ、セシーリア」

セシーリアを強く抱き締めた後、耳元でシーグルが囁いた。

それからゆっくりと身を離すと、長身を屈めてセシーリアの瞳を覗き込む。

セシーリアは涙でグシャグシャになった顔をシーグルに向けて声をつまらせた。

「それだけじゃないの……オリビエが」

シーグルの頬にビクリと緊張が走る。

「兄さんがどうした」

先程、王とレイゲン・ドゥレイヴ、ユリウス・ハーシアの絶命を耳にしたシーグルだが、オリビエの事は誰からも聞かなかった。

しゃくり上げるセシーリアの両肩を掴むと、シーグルは再び問いかけた。

「セシーリア、兄さんがどうしたんだ」

切り込んだような二重の眼がセシーリアを見据え、彼女の言葉を待っている。

「答えてくれ」

セシーリアは震える声で答えた。

「オリビエが…レイゲンの代わりに連れ去られたの。カリムが、カリムが軍議塔の地下道でオリビエを」

予想外の出来事に、シーグルがギリッと歯軋りした。

「今から追って兄さんを取り戻す!」

スティーダを掴み上げて身を翻そうとしたシーグルの腕に、セシーリアはしがみついた。
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