ラティアの月光宝花
「シーグル!子供相手にやり過ぎよ!大人げないわ!」

ようやくふたりの元まで来たセシーリアが、シーグルを見上げて続けた。

「あんな風に後ろから両足をすくうなんて、頭を打ったらどうするのよ。あなたとは鍛え方がちがうのよ」

するとシーグルはあからさまに嫌そうな顔をしながら、腕組みをして答えた。

「実戦じゃこんなの当たり前なんだよ。両足すくわれて転倒した後にどう身を守るかを練習で身に付けなきゃダメだ。まごついてると心臓をひと突きされて死ぬ。お前はこいつが死んでもいいのか」

するとセシーリアがシーグルの逞しい腕を拳で叩きながら言い返した。

「バカね!ルルドを戦場に出すわけないでしょ」

その時だった。

「どうして?!」

立ち上がったルルドが、セシーリアを見上げる。

「セシーリア、僕だって戦いたい。だってもう僕、ラティア人だよね?!」

「ルルド」

ルルドはセシーリアの詞を遮り、眉を寄せて続けた。

「僕がラティア人として生きていくと決めてから、もう三ヶ月が経った。この三ヶ月を一度も後悔した事なんかない!僕はもうラティア人だ」

黒目がちのルルドの瞳が不安に揺れているのを見て、セシーリアは首を横に振った。

「あなたはまだ子供よ。戦いになど出る歳じゃないわ」

そう言いながら地に膝をついてルルドの目線に合わせると、セシーリアは少し微笑んだ。
< 166 / 196 >

この作品をシェア

pagetop