ラティアの月光宝花
「うわあっ……!」

その時、小さな悲鳴が聞こえた。

歩兵隊長が、グラデスを突き出し懐に攻め込んできたシーグルの腕を脇に挟んで動けなくした直後、素早く彼のふくらはぎを自分の足で跳ね上げたのだ。

砂埃と共に、シーグルの身体が地に倒れた。

「クソッ……!」

シーグルの汗にまみれた身体を起こしながら、歩兵隊長は満足そうに笑った。

「シーグル。グラデスは接近戦で最も有効なだけに、相手との距離が近い。力に加えて俊敏さや狡さも必要になるんだ。グラデスだけに頼ると勝てない」

「はい、エリスさん」

「いいか。武器ばかりに頼らず、組み技も学べ。引き続き柔術の訓練は怠るな」

「はい。今日はありがとうございました」

胸の前で腕を組み敬意を表すと、シーグルは流れる汗を拭いながら歩兵隊長を見送った。

その様子を小高い噴水の広場から見ていた三人は、シーグルの息を詰めるような練習風景に眼を見張った。

「おい、アイツ一体どうしたんだよ」

「見ろよ、あの身体つき。ガキだとばかり思ってたのに」

「シーグル!!お前、すげぇな!」

アンリオンが声を張り上げてシーグルに手を振ると、弾かれたように顔を上げたシーグルが三人を捉えた。

途端にオリビエとシーグルの視線が絡む。

シーグル……。

瞬間、シーグルが白い歯を見せて三人に手を振り返した。

「油断してると追い越すからな!」

「生意気だな、お前!」

「百年早いぞ、シーグル!」

アンリオンとマルケルスが声をたてて笑った。
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