ラティアの月光宝花
セシーリアはそんなヨルマの顔を両手でクシャクシャと撫でて笑った。

「いい子ね、お前は」

あの日、シーグルを探しに行った先のグロディーゼ養成所から救った豹を、セシーリアはヨルマと名付けた。

なんとか城まで辿り着いたものの、ヨルマの前肢の具合は良くなく、宮廷馬医であるバルトサールは、セシーリアに殺処分を勧めた。

何故ならこれほどまでに大きな野生の豹を手術するのは危ないからだ。

痛みに暴れられたら、こちらが命を落とす。

だがセシーリアは首を横に振るとバルトサールに即答した。

「ダメよ、お願いバルトサール。どうかこの子の脚を治してやって。この子は、私の言うことなら絶対にちゃんと聞くわ。私の仲間を傷つけることは絶対にない。だから助けて。千の薬草も万の医学書もお前の望むものはどんなものでも揃えるわ。お願いよ、この子を助けて」

バルトサールは、セシーリアの足元に臥せているヨルマを見下ろした。

最も獰猛といってもよい手負いの大豹が、まるで仔猫か何かのようにセシーリアに甘え、心から信頼しているのがありありと窺えた。

だが、バルトサールはそれを不思議だとは思わなかった。

何故ならバルトサールは、昔からセシーリアが人には馴れないであろう野性動物を手懐けるのを度々見てきたからだ。

一度などは増えすぎた牡鹿の狩りに同行した際、鉢合わせてしまった猪をセシーリアがなだめた事があった。

バルトサールは唇を引き結んで思案していたが、ホッと息をついたあとセシーリアに向かって口を開いた。

「わかりました。私の持っている全ての医術をヨルマに注ぎましょう」



セシーリアは、バルトサールとのやり取りを思い出しながらオリビエを見た。
< 68 / 196 >

この作品をシェア

pagetop