ラティアの月光宝花
そこからは一瞬であった。

ラティア帝国のグロディーゼは対戦した獣を無意味に苦しめず、致命傷を与えたらいかに早く心臓を止めるかによって腕が評価される。

アルディンは実に鮮やかであった。

暴れ狂う大熊の心臓を素早く貫き、一瞬で穏やかな眠りを与えたのだった。

雄々しいグロディーゼと、地に身を沈め動かなくなった勇敢な大熊に、観客全員が敬意を表す。

「プレーマーソーディ・ラティア!」

「プレーマーソーディ・ラティア!」

やがて大熊が運び出されると、闘技場は薔薇の花びらが撒かれ、酒で清められた。

「アルディン!アルディン!」

セシーリアが露台から身を乗り出し、アルディンの名を呼んだ。

「素晴らしい闘いをありがとう!ねえ、怪我はない?!」

「はい、王女」

アルディンはスティーダを腰に収めると、セシーリアを見上げて優しく微笑んだ。

「ねえ、私の挨拶が終わった後、時間ある?!ヨルマに会ってやって欲しいの」

その時だった。

パンパンと大きく乾いた拍手が、セシーリアのすぐ後ろで響いた。

丁度こちらを見ていた司会者が観客に静粛を求め、恭しくお辞儀をして下がった。

「いやいや、なんと美しい出し物である事か……まるで劇をみているようだ」

すかさずマルケルスとオリビエが視線を絡ませ、成り行きを見守る。
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