For You 〜 天使だった君に 最高のお返しを
彼は廊下をぐんぐんと大股で歩いて行く。

その彼のスピードに私は小走りで引っ張られて行く。


廊下でも相変わらず周りの注目を浴びてしまう。

でもやっぱり、彼はそんなことには厭わない。


どこに行くんだろう?

何を言われるんだろう?


ほとんど人と交流してこなかった私にとって、彼とは人生で初めてなくらいの時間を過ごしている。

でもやっぱりたった数ヶ月では、彼のことが全然分からない。

こういう行動を取るときはこんな気持ちだとか、こういう風に思っているときにはこんな言い方をするとか、何も分からない。


そうして気付く。


私、あなたのこともっと知りたい。


大柄ではないけれど、しっかり男の人だと分かる彼の背中を見つめる。

こんな風に思ったのは初めてだった。

人に対して興味が無くて、あんまり好きとか嫌いとか感情を抱いたことが無かった。

けれど、先を行く彼に手を伸ばしたい、追いかけたい追いつきたい、この感情がそういう感情なのならーー


彼に引っ張られて小走りになっていた足を、ほんの少しだけ速める。

すると繋がった彼と私の腕に、その分ゆとりが出来た。



土壇場の土壇場で、やっと決心がついた感じがした。
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