眠りの森のシンデレラ
十二月二十五日、クリスマス当日だが、眠りの森のキッチンは、厳かな雰囲気はまるでなく、今朝も賑やかだ。
「エ~! 聞いていませんよ!」
「言ったが眠ってしまったお前が悪い!」
早朝から仕事に出た薫に変わり、桔梗と登麻里が朝食の準備をしていた。
そこへ清と琶子が、言い争いをしながら入ってきた。
「もう、朝から何だっていうの!」
「登麻里さん、ちょっと聞いて下さい」
琶子がプリプリしながら、カウンター席に座る。
清は、窓の下のソファーに、憮然とした表情で腰掛け、サイドテーブルに置いてあった英字新聞を手に取る。
「いきなり榊原邸のクリスマスパーティーに来いって言うんです。この人が!」
琶子はそう言いながら、「犯人はお前だ!」みたいに清を指差す。
そこに思ってもいない言葉が返ってくる。
「あらっ、琶子も行くの?」
「も? って桔梗さん、行くんですか?」
ビックリ眼の琶子が尋ね返す。
「則武が桃花と来いって。私は行きたくないけど、桃花が喜んじゃって」
桔梗が渋い顔をする。
登麻里は、ワンプレートのベーグルモーニングを用意しながらクスクス笑う。
「桃花に父親と認めてもらうための点数稼ぎ。一からやり直さなきゃいけないから、彼、必死なのよ」
やはり、則武の告白は、桃花の夢にされてしまったらしい。
「琶子が行くなら、心強いわ」
ヘッ! と琶子は桔梗を見る。桔梗がホッと息を付く。その姿に、琶子は「行きたくない」と言えなくなる。
その会話を盗み聞いていた清は、新聞の陰で、グッジョブ、と親指を立てる。