甘い恋じゃなかった。




「キララくん、明里ちゃんと一緒に行った花火がよっぽど楽しかったみたいだね」



そんな桐原さんを見て、店長がニヤニヤしながら小声で言う。



うそ。本当に?これ、私と行った夏祭りの花火なの?




「言っとくけど、師匠が夏らしいスイーツを作れって突然言い出すから。パッと思いついたのが、かき氷と花火ってだけで…!」




なぜか焦ったようにそう言い訳をしはじめる桐原さん。




“ていうかこれ、ブルーハワイ?結局何味なんだよ、これ”



“…すげ。こんな綺麗なんだな、花火って”




そっか。パッと思いついたのが、私と行った夏祭りだったんだ。




「ぐふふふふふ…」



堪えきれず気持ち悪い笑い声を出した私に、桐原さんがあからさまに嫌そうな顔をした。



「お前この上なく気持ち悪いぞ」


「だって…!」




嬉しくて。


そんなこと言ったら、また怒り出しそうだからやめておこう。




私は緩んでしまう頬はそのままに、スプーンを持った。



シャリ、と心地いい氷の音がする。


フルーツは表面だけではなく、氷の中にも細かくカットされたスイーツがたくさん入れられていた。




はやる胸をおさえてゆっくりと口に運ぶ。口にいれた瞬間、シュワ、とソーダが弾けた。



そっか。この青、ブルーハワイじゃなくてソーダなんだ…!




さらに氷の下にはミントのムースと、抹茶のスポンジが層になっている。




爽やかなソーダと、ミントの清涼感、それを優しい抹茶のスポンジが絶妙なバランスでまとめあげている。




すごい。




「夏の味がする…」




うっとり呟いた私に、桐原さんがフンとやっぱりそっぽを向いた。





< 169 / 381 >

この作品をシェア

pagetop