甘い恋じゃなかった。


頭をハテナでいっぱいにする私に、桐原さんが深いため息をついた。


「…お前、頭の中で一人勝手にストーリー進めてんじゃねぇよ」

「だ、だって…あまりに難しい顔してたんでてっきり」

「俺が今考えてんのはコレだよ、コレ!」


そう言って桐原さんが手元にあったノートを軽く叩いた。言われるまで、そこにノートが広げられていたことにすら気付いていなかった。


覗き込んでみると、何やらケーキの図柄、そして細かく書きこまれた沢山の字。



「実は師匠にクリスマスケーキを任せてもらえることになってな」



桐原さんが誇らしげに言った。嬉しくてたまらない、といったオーラが体中から滲み出ている。


「そうなんですね!すごい!よかったじゃないですか!」


「うっせーな、浮かれてんじゃねぇよ」



浮かれたオーラを醸し出しながら桐原さんがわざとらしいシリアスな表情で腕を組む。



「師匠にクリスマスケーキなんて大役を任されたからには半端な仕事は許されねぇ。死ぬ気で取り組まねぇとな」


「で、でっ?どんなケーキを作る予定なんですか?」


桐原さんが悩んでいた理由が予想外すぎて拍子抜けしたが、今はもう私の頭の中ではジングルベルが鳴り響いていた。


だって桐原さんの作るクリスマスケーキ、だよ!?

こんなに楽しみなこと他にない!!


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