何度でもあなたをつかまえる
risoluto
risoluto~決然と
(リゾルート)

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「……弾いて。」

かほりが小声で雅人にそう指示したのを、代議士の東出先生……つまり指揮者の東出龍爾の妻は確かに見た。

……もちろん、声は聞こえない。

しかし、読唇術を学んだ東出夫人には、ハッキリと伝わってきた。


雅人もまた、ハッとしたようにうなずいて……カーテンを全開すると、まるでかほりにもたれかかるかのように寄り添って、ようやくギターをつま弾き、コーラスに参加した。

明らかに、茂木と一条はホッとしていた。


かほりもまた、安心して弾き上げた。

どちらからともなく自然にほほ笑みを交わす……。

逢えなかった時間も、お互いの状況も……全てが霧散して……2人だけの世界が広がる……。

かほりのチェンバロの上達はめざましく……、雅人はえも言われぬ恍惚感を覚えた。



わかりやすいカップルだこと。

東出夫人は苦笑すると共に、夫の龍爾がずいぶんと2人に肩入れしてる理由がわかるような気がした。

一生懸命なのに不器用で、才能と時間の無駄遣いばかりしているって言ってたっけ。

なるほど……恋も、音楽も……誰かの手助けが必要ってことね。

……まあ、尾崎雅人クンのほうは、人生まで、パトロンのマダムにおんぶに抱っこ状態……らしいけど。


とりあえず、そこから崩していく必要がありそうね。

そのためには……目標と保証を提示して、邪魔な負荷を捨てさせないと、ね。



東出夫人は、すぐ横に座っている政策秘書を手招きして耳打ちした。

既に、雅人の行状は完璧に調べ上げてある。

涙目で見つめ合ってる2人を眺めつつ、東出夫人は僅かな猜疑心をくゆらせていた。


……で……龍爾は尾崎雅人クンを抱いたのかしら?

……橘かほりお嬢さまには、さすがに手を出してないわよね?

何でもありなヒトだけに、ないとは言い切れないけど。

愛する夫の性癖をも熟知している東出夫人は、改めてステージの2人を眺めた。

……不毛な追いかけっこを、いつまで続けるのやら……。

人生はあっという間に過ぎゆくわよ……。

決断なさい。

自分の人生に、必要なモノを得るためには……諦めるモノも、捨てるモノもあるものよ。

子供じゃあるまいし。

さあ。

遊びはそろそろ終わりよ。
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