溶ける部屋
「それもそうだよね」


伶香が首を傾げてそう言った。


「そもそも、その中でどうして俺たちだけなのかって事だな」


健が腕組みをしてそう言った。


「だな。公園ではもっと沢山の子供たちが遊んでた。その全員がつれてこられたわけじゃないしな」


弘明が同意する。


伶香の表情が少しだけ曇った。


「じゃぁ、あたしたちはどうすればいいの?」


伶香の質問に、みんなが無言になってしまった。


少しだけ前進したかもしれないが、まだこの建物から出られる状態ではない。


まだあの部屋に入る必要があると言う事だ。


誰もがその事を理解していたけれど、それを口に出す事はできなかった。


どれだけ前向きに考えてみても、やっぱりあの部屋に入ることには抵抗がある。


弘明が、包帯が巻かれたままの耳に手を当てた。


「一度溶けると、もう二度と戻らないかもしれない」


全員の顔を見て、そう言った。


「言わないようにしておいたけれど、俺の溶けた方の耳はずっと聞こえていないんだ」


その言葉に、突如現実を突きつけられた気分になった。


「そんな状態だったのか!?」


健が大きな声を上げて弘明を見る。


その目は怒っているように見えた。


「あぁ。ほんの少し溶けただけだと思ってたけれど、その日の内に音が聞こえてない事に気が付いたんだ」


弘明はできるだけ穏やかな口調でそう言った。
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