溶ける部屋
変な子
弘明の状態を見たあたしたちは、5分という時間を3分に短くして入る事になった。


人によって影響が出る時間に差があるようだけれど、安全を考えた上での決断だった。


「健、大丈夫?」


あたしは部屋の中にいる健に声をかけた。


「あぁ。平気だ」


そう返事が来て、ホッと胸をなで下ろす。


返事がなくなったらすぐに救出してほしいと言われているのだ。


弘明が休憩中の今、女の手だけで健を助け出すことができるかどうか不安だった。


でも、あたしたちがやらなきゃ健は死んでしまうんだ。


そう思うと、どんな力でも出せそうな気がしていた。


「なにか、思い出せそう?」


「あぁ……また、あの公園の事を思い出してる。懐かしくて優しい記憶だ」


そう言っている健の声はとても穏やかだ。


心地がいいのが伝わって来る。


外に誰もいなければ、トシのように、本当にこの部屋に取り込まれてしまうんだろう。


「そろそろ時間だよ」


あたしがそう言うと健が「もう3分経ったのか」と、少し残念そうに言い、ドアを開けた。


部屋から出た健は強く頭をふって大きく深呼吸をした。


「大丈夫?」


あたしはロープを解きながらそう聞いた。


「あぁ。弘明の言っていた変な女ってのはわからなかったけど、やっぱりあの頃の記憶が蘇って来るんだ」


「そうなんだ……」


みんなが一緒に遊んでいたあの頃。


懐かしくて楽しくて優しい記憶。


それがどうしてこんな悲劇を生みだしているのか、あたしにはまだわからなかった。


「次はあたしが行くね」


郁美がそう言った。


その手は少しだけ震えているのがわかった。


「無理しないでね。3分もたないようだったら、すぐに出て来たらいいから」


「うん。わかってる」


郁美はそう言ってほほ笑むと、ドアを開けて部屋の中へと入って行ったのだった。
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