溶ける部屋
その大きな手のぬくもりになんだか安心してしまう。


「なんでわかったの?」


「無理してる気がしたから」


そう言われて、あたしは健から視線をそらせた。


無理をしている。


こんな状況なら多少無理をしなきゃ自分を保つ事だってできなくなってしまう。


「みんなの前では無理をしてもいいけど、俺の前では無理すんな」


健がそう言い、あたしの体を引き寄せた。


その距離に心臓がドクンッと大きく跳ねた。


健の事はずっと前から好きだった。


だけど健の気持ちがどうなのかわからなくて、あたしはいつも仲の良い1人で我慢していたんだ。


なのに、こんな事をされたらあたしは自分の気持ちがあふれ出してしまう。


「健……」


あたしは健の背中に自分の両手を回した。


すると健は更にきつくあたしの体を抱きしめてくれた。


それが嬉しくておもわず涙が滲んできた。


「泣きたかったら、泣けばいい」


健はそれを勘違いして、優しい言葉をかけてくれる。


少しずるいかなと思ったけれど、あたいしは健の言葉に甘えて、長い時間その腕の温もりを感じていたのだった。
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