溶ける部屋
弘明の拳が健の頬に当たった。


健はグッと体勢を持ちこたえて、弘明に殴りかかる。


「やめてよ……」


その様子を見ていると、涙で自分の視界が歪んでいく。


なんでこんな事になったんだろう。


普通に当たり前の生活を続けていただけなのに、なんでこんな事に……。


頬を打ちつける音が響き渡る。


怒号が飛び交い、あたしは逃げるように部屋のドアへと向かった。


開け放たれたその向こうに、突き当りの部屋のドアが見える。


あの中にまだトシがいる。


ドロドロに溶けた状態で、あの部屋にいる。


あたしは涙をぬぐい、どうにか立ち上がると廊下を歩き出したのだった。
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