ボルタージュ王国の恋物語〜番外編〜

肩を押された際に、アレンの極上の銀糸の髪が空気を含み舞い上がる。
太陽の下では、溶けてなくなるのではないか? と、心配になるほどの雪のように真っ白い肌は、白いだけでなく陶器のように滑らかだ。
こちらを見据えてくる瞳の色は、アメジストの宝石だ。あまり宝石や美に興味がない騎士見習いの者達も、アレンのこの世とは思えない儚さたっぷりの美貌に魅入られて、固まる。
文句無しに美しい造作の顔面に、品良く形作られている唇からは、男にしてはすこし高めの甘い声が、、、。


「はじめまして、アレンと申します。よろしくお願いします」

「「「「「「……えっと……」」」」」」

なんの感情の欠片もない声と表情。しーーーん。と静まり返る闘技場には、場違いな鳥の鳴き声が微かに聞こえていた。

アレンは最早それ以上話すつもりがないのか、黙っている。
バルデンも、アレンの趣味や野望、騎士への熱い気持ちを聞くつもりだったので、あまりにも短い自己紹介に ポッカーン、だった。


バルデンよりも早くに覚醒した、キメルダは「団長」とバルデンを呼び、現実に引き戻す。

「あっいや、すまん。まぁ、その、仲良くやってくれ。今日はこれで解散だ。それと……アレンに騎士見習いの生活を教える者をだな、、、」

とバルデンが口を開くと、騎士見習いの青年達はキラキラとした瞳で、バルデンを見てくる。

「うっっっ」

闘技場にいる騎士見習いは誰も口には出していないが、目でモノを言う。
僕が!! 私が!! 俺が!! と……。
例え男であっても、これだけの美貌はなかなかお目にかかれない。ほぼ女なしの生活な為、色々たまっているのも加わり、異様な空気になっていた。
バルデンもキメルダもこれには、頭を、抱えていた時、今まで黙っていたアレンが口を開く。


「バルデン団長、もしまだ教えを請う相手が決まっていないなら、あそこの金髪にグリーンの瞳の彼がいいです。年の頃も同じだと思いますし、駄目でしょうか?」

今まで何も映さなかったアレンのアメジストの瞳に、はっきりとした輝きが入り、レオンを見つめている。

名指しされたレオンは驚愕に瞳を開き、バルデンとキメルダは、息を飲む。
騎士見習いの青年達はレオンの身分は知らない。騎士団でそれを知っているのは、団長であるバルデンと副団長のキメルダだけだった。
何故アレンがレオンを選んだのか……。知っていて選んだのは分かる。でもそれは何故かが分からないからこそ、王太子であるレオンに近づけてよいものか迷う。

それは、アレンの父はこの国の宰相だからだ。

どうするか、迷う二人を尻目にレオンはゆっくりと前に出る。



「俺はレオンという。アレンと年齢も同じ十八だ。何でも聞いてくれ。よろしく」

レオンは優しい笑みを浮かべながら、陽に焼けた右手を差し出す。
レオンの肩までしかない身長で、儚げさが漂うアレン。レオンの差し出された右手をゆっくりと握り返す。
儚く消えそうな見た目と相反し、合わさった手の大きさに、その腕力に、驚愕する。

驚き、アレンの瞳に視線を合わせると、、、レオンを見据える瞳は、先ほどまでの感情のない瞳ではなかった。
アメジストの瞳は、限りなく深く、底がみえない欲望を覗かせていた。


この二人が後に、長きに渡りボルタージュ国全土に、名が語り継がれる賢王、レオン・ボルタージュと。
ボルタージュ最高の騎士で、白銀の騎士という異名を持つ、伝説の騎士アレン・メルタージュ、二人の出会いだった。
< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop