強引上司にさらわれました
ピンと張りつめた空気。
ふたりの間に、私には入り込めないつながりがあるのを感じずにはいられなかった。
招待客の視線が、私たちと舞香ちゃんの間を行ったり来たりする。
嫌な音を立てて、私の心臓が高鳴り始めた。
「泉、ごめん……」
「えっ……」
達也は消え入るほどのか細い声で謝ると、私に背を向ける。
そして、舞香ちゃんの元へと走り出した。
――嘘でしょ。
茫然と立ちすくむ私の前で、ふたりは手を取り合って教会から消え去った。
なにこれ。
ドッキリでしょ?
穏やかすぎる私たちの関係に、ほんの少しの波風を立てようという、同僚たちの仕掛けに違いない。
ちょっとしたサプライズだ。
舞香ちゃんときたら、演技がうますぎるんだから。
このためだけに来てくれるなんて、あとでなにかお礼でもしなくちゃ。
ところが、いつまで突っ立っていても、『はいー! ドッキリでしたー! 驚いたでしょー』と看板を持って賑やかに現れる人はいない。
それどころか、教会の中は招待客の沈痛そうな顔で満ち溢れていた。
私に向けられる、憐みの視線。
そして、慌てるスタッフたち。
私は、その場で身動きひとつできずに立ち尽くすしかなかった。