かわいい
1組、2組、3組、と順番に教室を回ったが
まんまるくんの姿はどこにもない。
もちろん、廊下を歩いている人の中からも探したが
やはり、居ない。
彼は幻だったのだろうか。
「居ないねぇ。くるくん。」
「う、うん…。」
残念な気持ちと、居なくて良かったという気持ちがあり、複雑な気分だ。
「…1年の女子に聞いてみる?」
「えっ、えっ!?いきなりそんなハードル高いこと出来ないよっ!」
1年生の校舎に来ただけでも精一杯の私が、1年生の女子と会話するなんて、不可能に近い。
「も〜。ほんと怖がりなんだから。ハツカは…。もっと自信持ちなよ。」
「む、無理…。やっぱ、今日は帰るべきだよ。」
私は緊張と不安で胸が苦しかった。
喉もカラカラで、早くここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
そんな私をしょうがないなぁといった諦めの表情で見つめる瑞樹。
「ほんと…ごめん…。」
「もういいよっ!ハツカのその自信の無さは、ハツカのお兄ちゃんが原因だろうし。」
「は、はは…。」
そう。私にはお兄ちゃんがいる。1つ年上の悪魔のようなお兄ちゃんが。
瑞樹は私のお兄ちゃんとも知り合いである。瑞樹とお兄ちゃんは、いわゆる犬猿の仲というやつだ。
「い〜い!?ハツカはかわいいんだから、ちゃんと自信持って!」
「…が、頑張るよ…。」