オオカミ専務との秘めごと

彼はバニラアイスを、私はさんざん悩んだ末に、ボリュームたっぷりのパンケーキを頼んだ。


「味はどうだ?」

「んー、ふわっふわで、ほっぺが落ちそうなくらいに美味しいですー。ホイップクリームの甘さとフルーツの酸味が最高」

「・・・語彙がねえな」

「グルメレポーターじゃないので、こんなもんですっ。味のテーマパークや~なんて、言えませんから」


唇を尖らせると、彼は「古っ」と声を立てて笑った。

なので、私もつられて笑う。


こんな風に二人で過ごしていると、デートってこんな感じなのかなあと思う。


「今日は付き合ってくれてありがとな。助かった」

「・・・いえ。あんまりお礼にならなくてすみません」


帰りはどこまで送ればいいかと訊かれて、自宅近くの最寄駅までお願いする。

お互い名前も名乗っていないけれど、長い人生の中ではこんなことが一度はあってもいいかもしれない。

昨日からいろいろあったけれど、そんなふうに思える時間を過ごすことができた。

このまま綺麗な思い出にできそうだ。


駅に着くと、車から降り際に「ちょっと待て」と止められた。


「はい、まだ何か?」

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