オオカミ専務との秘めごと

誰もいない営業部のフロアで一番にすることは、みんなのデスクを雑巾で拭き、窓際の観葉植物の葉っぱを拭いて水を上げること。

そうしていると、一人二人と出勤してきて部内がだんだんにぎやかになってくる。

私は、人が増えていくこの時間が好きだ。

そして始業時間の十分前くらいになると佐奈たち女子社員が出勤してきて、無機質な部内は華やかになる。


「おはよう、佐奈」

「おはよう!ね、菜緒。金曜はどうだったの。途中から松野下さんといい感じで話してたでしょ。いつの間にか二人ともいなくなっちゃったし」


あれからどうなったの?と、朝から興奮気味の佐奈に少し面喰らう。

大神さんのことで頭がいっぱいで、松野下さんのことなんてすっかり忘れていた。

佐奈の口ぶりでは、金曜は松野下さんと二人で抜け出したことになっているみたいだ。

彼は、あのあと一人でどうしたんだろう?

泊まると言っていたけど、おとなしく彼女の待つ家に帰ったんだろうか。


「あー、あの人ね・・・」


あのときを思い出せば、松野下さんの言動でどぎまぎして“運命の人かも”と舞い上がった自分が情けなくなる。

眉間にシワを寄せると、佐奈の笑顔が曇った。


「え、もしかして、なんかあった?」


心配そうな目を向けてくる彼女に、“愛してるよ”の一件を話すと綺麗な顔を歪めた。


「うそー信じられない、最悪っ。チャラ男が混じってて、ごめん」


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