幸せの青い鳥
ボクは窓際の机の上に置かれて、雅樹先輩のことをじっと見ていた。



彼の仕草や言葉や、ボクを見る時の目を



見逃さずにしっかりと。


月は――そんなボクを見つめるように照らしていた。




雅樹先輩の静かな寝息を聞いてから、ボクは月を見上げた。



きっとできると思った。


何故か、そう思ったんだ。



金色の月の光を浴びたボクは、その夜――人間の姿になって、雅樹先輩の部屋に立っていた。



スヤスヤと眠る彼の横で


雅樹先輩に変身したボクがいたんだ…!




雅樹先輩、少しの間サヨナラだよ。



ボクはそっとウインクして、静かに部屋を出て行った。





水色のビー玉を手の中に隠したような空が



しんと張り詰めた街を包んでいた。



ボクはまず、雅樹先輩が通う大学に来た。



彼の体を借りて、慣れない動きでここまで歩いてきたのさ。



もちろん校内には入れない。朝がくるまで裏口の芝生で過ごしたんだ。




そして、朝。


ボクは再び歩き出した。


やわらかな日差しの中



牛乳配達と新聞配達のお兄さんとすれ違って、



会社や学校に向かう誰かが通る。



その家のドアは開いた。


少し離れた場所にいたボクは、



家の中から一人の女の子がでてくるのをみたんだ。セーラー服姿が眩しい。



「あれ…雅樹先輩?」



その子の方に向かって歩いて行くと、ボクに気付いて彼女は行ったのだった。



ボクも、なに食わぬ顔で。



「沢本さん…」


「先輩、どうしたんですか?」



るりちゃんが言った。



ボクはその時、鳥としての理性を失っていたかもしれない。



雅樹先輩の姿を借りているだけなのに



まるで人間みたいに慌ててしまっていたんだ。



でも、大好きな女の子とこんな風に話ができるなんて。人間ていいな…
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