隣の部屋と格差社会。



「あの日、恵吾をあの店に呼び出したことを俺はいまも後悔してる。俺が恵吾を殺したという思いが消えないんだ。」

「そんなっ…。」

「だから、俺はお前たちのことを自分の幸せを犠牲にしてでも守ると誓ったんだよ。
でも、間違ってた。」


公園での必死の訴えを聞いて、美奈子の辛そうな顔を見て、ようやく気がついた。


「そんなの、ただの自己満足だよな。自分勝手でしかなかった。
俺が恵吾の立場だったら、そんなことをして欲しいとは思わない。」

「竜一君…。」

「お前たちを守るという誓いは変わらない。何かあったら絶対に守る。
けど、幸せを犠牲にしてでもとかいう下らない罪滅ぼしはもう止めるよ。
俺も、『幸せ』とかいうのを望んで見ることにする。」


俺が幸せを望むことを、望んでくれる人がいる。


「うん、そうして。私も恵吾も恵美も、応援してるから。」



そう言って、薬指にある今もまだ輝きを放つ幸せの証を撫でながら嬉しそうに笑う美奈子はきっと、俺が今から望もうとしている幸せとは何のことか気付いている。


そう思うと急に気恥ずかしさが込み上げてきて、それを打ち消すように、冷めてしまったテーブルの上のコーヒーを流し込んだ。




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