隣の部屋と格差社会。



「佐渡君、今度改めて菖蒲とうちへ来なさい。」

「はい。」


お父さんはそう言い残すと、武田さんとともに社長室を出て行ってしまった。


社長室に残されたのは、私と佐渡さん、そして長門さんの3人。


気まずい…。


どうすればいいのか分からなくて、最早泣き出しそうになったとき。


「櫻木製薬は俺のものだ。」


長門さんがそう小さく呟いた。

それは、地を這うような低い声。


「時期社長の座を譲るつもりはありません。」


今度ははっきりとそう言った長門さんは普段の穏やかな仮面は脱ぎ捨てて、もう野心剥き出しだ。


もうこの部屋から逃げ出したい、そう思ったとき、今までずっと背中にあった佐渡さんの手が離れた。



「悪いが、社長の座なんて興味はない。ただ、彼女の隣は譲るつもりはないんで。」



長門さんよりもずっとずっと低い声が社長室に響いた。


未だ佐渡さんの真意は分からないのに、その言葉は脳内に、甘く強い衝撃を与える。



手をギュッと握られて、そのまま引っ張られるように社長室をあとにした。




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