隣の部屋と格差社会。



「難しく考え過ぎなんじゃないですか?
好きって意外と単純ですよ。」


単純…。


「この人と一緒に居たら楽しいなー、とか安心するなーとか思える相手居ないですか?」


一緒にいると楽しい、安心する人。


あれ。

なんでいま、佐渡さんの顔が浮かんだんだろう。


役所で初めて見たときの、お仕事モードの佐渡さん。

私の世間知らずっぷりに呆れ顔の佐渡さん。

落ち込んでいたらさり気なく慰めてくれる佐渡さん。

満員電車で守ってくれる逞しい腕。

ビールを煽るときに上下する色っぽい喉仏。

煙草を挟む長くて細い指。

これまでの色々な佐渡さんが思い浮かぶ。
て、後半なんか私変態みたい…。



「あ、今誰か浮かんだでしょう?」

「う、浮かんでないよ!」

「えー?」


ごめんなさい、ものすごく浮かびました。

でも、佐渡さんはただの親切なお隣さん。

それだけ。本当にそれだけ、のはずだ。

なのに、なんで。


なんで顔を思い出すだけでこんなに身体が熱くなるんだろう。

なんで胸がこんなに痛いんだろう。


こんな感情、知らない。


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