おきざりにした初恋の話

この季節になると、時々思い出すことがある。

もう10年も前の、後悔に溢れた初恋の話。
思い出したってどうにも出来ないことはわかっているつもりだ。それでも思い出さずにはいられないくらい、当時高校生だった私にとっては大恋愛だった。

高校卒業前、ちょうどこのくらいの時期に別れた彼氏の名前は黒田敦士(くろだ あつし)といった。
優しくて男らしくて頼りになる黒田くんは、確かサッカー部のキャプテンだった記憶がある。

高校1年のときから約2年間付き合っていて、自分なりに真剣に向き合っていたつもりだった。
幼いながらも本気で、馬鹿みたいだけど、彼と結婚するとさえ思っていた。

もう10年も前のことなのに時々こうして思い出すのは、別れたくないと言った黒田くんの手を振り切ったことを忘れたいから。
でも忘れられないから。

履き慣れたヒールを鳴らしながら歩き出す。
ふと、昨日の夜見たDVDが鞄に入っていることを思い出した。
どうせならこのまま返しに行ってしまおうか。

冷えた手をコートのポケットに突っ込んで、家とは逆方向のレンタルショップへと歩き始めた。

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