初恋
第二十四話 仮面を被った道化(直美編)

 雄大からの真剣な告白の後、数時間して修吾から連絡が入る。しかし、深雪には会えたが詳しい話は明日朝一の学校で、と一方的に言われ電話を切られた。
 納得がいかないものの直美はいつもより一時間早く学校に向かう。さすがに七時だと朝練の陸上部くらいしか見かけられない。教室に入ると既に待っている修吾が顔を向ける。
「おはよう、修吾」
「おはよう」
 鞄を机の横にかけると、雄大の椅子に直美は座る。
「昨日の詳しい話を聞かせて」
 開口すぐ本題に入る直美に、修吾は丁寧に話す。しばらくは黙って聞いていたが、深雪の発言に触れ直美の怒りスイッチがオンになる。
(二度と来ないでとか、ありえない!)
「じゃあ、修吾がほとんど身を引いたような感じじゃない」
「いや、深雪さんに幸せになってほしいのは本心だ」
「そのためなら自分は傷ついても構わないって? それは違うでしょ」
 直美は興奮し前のめりになる。
「っていうか、深雪さんに失望したわ。今回のケースを考えたら、絶対理由を言うべき。じゃないと修吾が納得出来ないし前にも進めない。何考えてんだろのあの人」
 修吾の気持ちを想うあまりか、直美の怒りのボルテージは上がりっぱなしだ。
「ああ、なんか凄くイライラする~」
「なんで俺以上にオマエの方が怒ってんだよ」
 直美の態度によって逆に修吾は冷静になる。
「とりあえず、今は言われた通りそっとしとくよ。先月再会してから焦って盛り上がり過ぎた感あるし」
「修吾は本当にそれでいいの?」
「ああ、オマエのお陰で逆に冷静になれたわ。ありがとう」
(修吾にそう言われたら何も言えないじゃん……)
「ま、修吾がそう考えるならこれ以上何も言わないわ。野暮ったくなるのヤだし」
(なんか真剣に心配したのが馬鹿らしい)
「直美」
「ん?」
「なんでこんなに協力してくれた? 敵に塩を送らない主義なんだろ?」
(修吾ってホント馬鹿ね)
「修吾がさっき言った台詞そのままよ」
「えっ?」
「好きな人には幸せになってもらいたい」
 人差し指を立てて続ける。
「だから、修吾の幸せが深雪さんと一緒になるってことなら協力するわ。けど、深雪さんが幸せになるために、ってことなら協力はしない。私が協力するのは好きな人に頼まれ、それがその人の幸せに繋がるかどうか、なの。だから敵、今回の場合だと深雪さんね。深雪さんに協力したなんて全く思っていないし、今後もしない」
(ホント、今回の件で深雪さんには失望したしね)
「分かりやすい考え方だな。でも、それって今の俺と同じで想いを我慢するってことにならないか?」
「なるね」
「それってダメなんだろ?」
「ダメじゃないよ」
「えっ?」
「だって想いを我慢するしないは自分自身の問題だもの。誰にも迷惑かけてないし全く問題無し」
「さっき俺に身を引くのは間違ってるって言ったぞ」
「言ったね」
「どっちなんだよ」
(皆まで言わせるのが修吾の馬鹿なところなのよね……)
「間違ってるよ。自分を犠牲にして幸せを願うなんて」
「ほら」
「言い方が悪かったね。正確に言うと、幸せを願うためとは言え、自ら進んで傷つく大好きな人を黙って見られない、私のエゴな一意見なの。私が傷つくのは自分の痛みだから我慢できるけど、他人の痛みは正確に知る術がないから我慢できないって感じ。修吾には傷ついてほしくない。そして、修吾が幸せになれるなら、私は我慢する。そういうこと」
(それだけ貴方を好きってことなんだけど)
「自分勝手ってことだな」
「そうね。自分勝手な想いよね。迷惑でしょ?」
「いや、なんかちょっと嬉しい」
「惚れた?」
「いや、それはない」
「そこは即答しないでほしかったんですケド?」
(ダメだコイツ、でも嫌いになれない自分がいる……)
 苦笑いする修吾に直美も同じように応える。
(涙が出そうなくらい辛いのに、修吾の前では強がっちゃう。谷口の言う通り私は仮面を被った道化なんだ……)
 涙が零れるのを我慢しながら、昨日言われた雄大の台詞が頭の中をぐるぐる回っていた。

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