クールな御曹司と溺愛マリアージュ
面接の時に言われた言葉は少しも間違ってなくて、しかもそれが悪意から成る言葉ではないということは、今の私なら分かる。

私を辱めようとか、馬鹿にしたかったんじゃない。


あの服は、佐伯さんなりに私に似合う物を見つけてくれたんだ。私の為に……。

「ありがとうございます……。でも、どうやって用意したんですか?」

時間も遅かったし、急に用意なんてできるはずがない。


「ささむらの副社長とは友人なんだ。だから夜連絡して取りに行った」

「取りにって、夜わざわざ行ってくれたんですか?」

信じられない。泥酔して寝てしまった私なんかのために、佐伯さんが?


「同じ服を着て会社に来させるわけには行かないだろ。お前も一応女なんだ」

だからって、そこまでしてくれる理由なんてないのに。

「ご友人にも迷惑かけてしまって、本当にすみません」

「何回謝る気だ。あの服を柚原が気に入ってくれた、それだけでいい」


きっと私は変われない。それなら無理なんてしないで、地味でダサいままでいいと思っていた。

でも今初めて……誰かの為にコンプレックスを乗り越えて臆病な自分を変えたいと、そう思った。



「それにしても、今日の服装も酷いな。トップスはワンサイズ下げないと、一生サイズが合わない物を着るつもりか」

「……っ、はい。そうですよね。ゆるっとしてた方が動きやすいかと思って……」


もう失礼な人だなんて思わない。これは佐伯さんから私への、意地悪なアドバイスだから。

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