クールな御曹司と溺愛マリアージュ
自分のデスクに戻った私は、仕事をしながらふたりの会話に耳を傾けていた。


「前に話した通り、イタリアンレストランだ。現在渋谷に一店舗だが評判が良く売り上げも上々で、夏に青山で新店舗をオープンすることが決まった」


青山のイタリアンレストランで、今度は改装ではなく新店舗か。なんか凄い。

正直全然どんな風になるのか分からないけど、成瀬君の時のように今からどんなデザインになるのか楽しみだな。


真剣に打ち合わせをしている佐伯さんの視線がふとこちらに向けられ、目が合ってしまった私の胸は急激に高鳴る。

佐伯さんに送ってもらったあの日から、目が合うだけで私の心臓はこの調子だ。

なんとか平然を装っているけど、この気持ちがなんなのかなんてとっくに気が付いてる。


「柚原、おい柚原!」

「はっ、はい、すいません」

焦ってふたりの元へ行くと、拓海さんが私を見てニコッと微笑んだ。

「実は明日クライアントへ直接行って話を聞かなきゃいけないんだけどさ、俺は別の件で出なきゃいけないし成瀬もカフェの方があるから、恵梨ちゃん渉と一緒に行ってくれない?」


一緒にって、私が?

「でも私は……」

戸惑っている私を見て、佐伯さんは資料の中の一枚を私に手渡した。

「みんな忙しいんだ。お前暇だろ」

「暇って、そりゃ皆さんに比べたらそうかもしれないけど、でも……私は事務員だし、一緒に行っても役に立たないというか」

「事務員だろうがなんだろうがワームデザインの社員だろ。別にデザインをしろと言ってるわけじゃない、いいから明日行くぞ」

「分かりました……」


本当に私が一緒に行っていいのか不安だけど、ワームデザインの社員なんだという佐伯さんの言葉は素直に嬉しい。

でも、クライアントに会うって何を着て行けばいいんだろう。無難にスーツ着るしかないかな。


佐伯さんと一緒に歩いた時に、恥ずかしい思いはさせたくない。
そんなことを思いながら私は、今自分が着ている地味な服にそっと触れた。


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